【野草雑感 Ⅵ】

投稿者  新矢田一丁目  市川景範

オオイヌノフグリ

1月25日今朝我が家の庭の日向で数輪のオオイヌノフグリの花が咲いているのが目に留まった。この辺りをよく見ると先が色付いたつぼみが沢山あり、やがてこれらが一斉に咲き、夜空に星が輝いているようになるのであろう。

星をちりばめたように咲くオオイヌノフグリの花

 当地あたりでは、その年の最初に出会う野の花は、ほとんどオオイヌノフグリであり、まさに春の先駆けともいえる花である。

まだ寒さの厳しい早春の空の光を受けて、コバルトブルーの花びらは、微笑むように日向の草むらに咲いている。さらに温かさも増し、日の光も強くなるとこの草は急速に広がり、コバルトブルーの花が地面に散りばめたように群がって咲くことであろう。この様は、夜空に星が輝いている様で、この花は「星のひとみ」とも呼ばれる。

いぬふぐりほしのまたたくごとくなり
            高浜虚子

オオイヌノフグリさく果(拡大)

こんなに可憐で美しい花でありながら、とんでもない名前がつけられている。
ふぐりなんか現在では死語にも等しい言葉だから恥ずかしげもなく使っているが、この早春の使者にはふさわしくないと言う人は多い。
いぬのふぐりとは、犬の陰嚢(性器、睾丸)のことで、この草のさく果(果実)の姿、形が犬のそれによく似ていることによるが、あの2~3mmほどの小さなさく果を見て、よくぞまあ、あの「犬のふぐり」を思いついたことか感心する次第である。

オオイヌノフグリ(拡大)

オオイヌノフグリは、日本の在来の草ではなく、明治の初期に日本にやって来た帰化植物である。そして持ち前の繁殖力の強さで大正の初期にはほぼ日本全体に広がったようである。日本には、よく似たイヌノフグリという草が昔からあったが、勢力の強い外来種に追い払われたのか、当地では未だ見たことがない。



 ヨーロッパあたりでは、この花をキャッアイ(猫の目)あるいはバーズアイ(鳥の目)とも言われるが、またこの仲間の草たちは、スピードウエルと呼ばれて、強精剤や傷によく効く薬として利用されることもあるようだ。

 この植物の学名Veronica persica のVeronica は、キリストが処刑場へ向かう時付き添った女性聖者の名であり、何と尊い名が付けられていることか。それに比して、和名がオオイヌノフグリとは・・・・・・。

この可憐な小花は手に取って見ようとすると、花びらは、ハラリと落ちてしまう。姿はたおやかなのに意外と気位の高い花なのである。

ひとつぶの花てのひらにいぬふぐり
            山口青邨

 早春のおだやかな日ざしの中でつれずれなるままに。

以上