投稿者 新矢田一丁目 市川景範
フキノトウ(蕗の薹)
近ごろは、自然がどんどん壊されている中で、野草や山菜などを懐かしむ人が増えている。筆者もそのひとりといえる。
数多くある山菜の中で、春一番を告げるのは「フキノトウ(蕗の薹)」(注)である。この辺りでは場所により暖かい陽だまりなどでは一月の下旬頃から姿をみせる。
野草や山菜を好む者にとっては、フキノトウは、「新しい春」の象徴である。その花の姿は輪になって太陽に両手を高々と掲げているようであり、瑞々しい薄緑色とそのさわやかな香りは正に「新しい春」の息吹そのものである。
フキノトウは、フキの若い花および花茎であるが、フキは日本列島の原産で特産の植物であることから、フキノトウは日本の味であるといってもいいだろう。そういえば、フキノトウのあのほろ苦さは日本人にだけしか解らない味なのかも知れない。 あの匂いがまたうれしい。なるべくならば生で食べたい。
蕗(ふき)の薹(とう) 千々に刻まれ匂ひけり
臥風
普通はゆでてアクを抜いてから料理をする。だが、あのほろ苦さを無くしてしまっては、つまらない。細かく千切ったものをみそに練り込んだり、丸のまま焼いてみそをつけるのもおいしい。そのままで衣を付けて揚げて塩を振って食べるのもいい。醤油で煮詰めておけばいつでも楽しめる。
フキノトウのもう一つうれしいのは、これらの食べ方がどれも日本酒の熱燗(あつかん)に極めてよくあうことであり、特にあのほろ苦さが絶妙である。
一方、フキノトウは滋養と薬効においても優れものである。フキノトウには、βカロチン、ビタミンB1、B6、E、K、カリウム、カルシウム、ポリフェノール、食物繊維などが豊富に含まれており、細胞老化、動脈硬化、高血圧の予防とともに最近では抗肥満効果も確認されている。
また何よりも春一番のこの芳香と苦みは、冬の間鈍っていた体をシャキッとさせ、新陳代謝を活発化させる働きが大きい。
冬眠から覚めた熊が、最初に探すのはフキノトウで、これを食べて体の新陳代謝をアップさせるという。
今年はまだフキノトウを口にしていない。この稿を終え次第、いつもの所で数個頂戴し、天ぷら?、フキノトウ味噌?、そして熱燗でパワーアップしたいと思う。
庭の上に一つ萌えたる蕗の薹 わが知らぬ間に妻が摘みける
半田良平
(注)
「薹」(とう)= 野菜などの花軸、花茎。「蕗の薹」以外はあまり使われない言葉、漢字であるが、この「蕗の薹」から派生したフレーズとして「薹(とう)が立つ」 がある。 フキノトウが、花開いて茎が伸びる(立つ)頃になると固くなり、苦みも増してまずく食べられなくなることから、野菜類の採り入れの時期を過ぎること。
以上