どくだみ(十薬)の花
新矢田一丁目 市川景範
我が家の庭のあちこちに咲くどくだみの花はもう満開に近い。 開花時期は年々早くなるが今年は一段と早い。 この草の繁殖力としつこさにはほとほと手を焼くが、花の時期になるとその花にはなぜか魅かれる。
どくだみの花のにほひを思ふとき青みて迫る君がまなざし 北原白秋
決してはなやかでなく、一種の異臭をさえ漂わすこの花どくだみは、インターネットで垣間見ると意外にも多くの詩人にもとりあげられている。北原白秋のほかに正岡子規、斎藤茂吉・・・・など。さびしげな中に、ほのかな気品をそなえた、そのつつましやかさが多くの詩人を惹き付けるのであろうか。この花のたたずまいは、若きあの頃、遠目にほのかな想いをいだいた年上のあの女(ひと)をなぜか思い起こさせる。
どくだみは十薬(じゅうやく)とも言われ、その名の通り薬効の多い植物とされ、青汁あるいは乾燥しての煎じ薬として古くから利用された。 薬の乏しい時代に庶民にとって重要な植物の一つであり、多くの人がこれにより救われたことであろう。 中国でも同様に古くから薬草の代表として用いられてきた。
最近は健康食品ブームもあって、どくだみ茶をはじめ多くのどくだみ商品がインターネットストアーを賑わしている。中でも美容と生活習慣病が目を引く。あの特有の異臭はある種のアルデヒドによるもので、これは有力な薬効成分の一つであるが、薬効成分はこの他に十数種確認されている。十薬は現代科学的にも確かなようである。
この花が終わる頃、季節は春から夏へ移るのである。
どくだみの白き小花は過ぎむとす
飽けるがごときさみだれ降りて 斎藤茂吉