【野草雑感 Ⅷ】

投稿者  新矢田一丁目  市川景範

ホトケノザ(仏の座)

数日前のウォーキングで休耕畑の片隅で「ホトケノザ」の花が群がり咲いているのに出会った。子供のころあの小さな花をつまんでとり花の根元のほうの蜜を吸ったことを思い出し、幾つかやってみてほのかな甘みを懐かしく感じた。

ホトケノザ=仏の座は、名のとおり仏様がお座りになる台座=蓮華座であり、この草の花部の二枚の葉が茎を抱く形が蓮華座に似ていることに由来している。

ホトケノザは他にどこかで聞いたことある名、そうです本稿と同シリーズの「野草雑感Ⅵ 春の七草」(令和2年1月)の、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、すずな、すずしろのホトケノザであり、これは現在の名をコオニタビラコというキク科の全く別のものである。しかし、ホトケノザと言えば、春の七草のほうがよく知られている。

ホトケノザの花は、2cm程の小さな紅紫色の花でたくさん群がって咲いているとあたかもおとぎの国で小人の踊り子たちが草の葉の上で踊り戯れているようであり、近づいて見ると踊り子たちはスラリと背が高く色・形はなかなかのオメカシさんである。

ホトケノザの花の拡大は写真のようであるが、進化の賜物として造形および配色は機能美として見事である。この花がもう少し大きかったら多分大変人気の園芸植物となっていたことであろうと思う。

花の筒状の下部には蜜が貯められ、上部は唇口形で構成され、上唇側に雄しべ、雌しべがある。昆虫はこの花の色・形に誘われ蜜を求めてやって来て、下唇部分に止まると花の上部は昆虫が蜜を吸うために頭部を突っ込めるように開き、昆虫は頭部を突っ込むと同時に背中部分に確実に花粉を付けることになり、効率よく別の花に運び、受粉をして次世代の種子を作るようにできている。

ホトケノザには次世代の種子を作るもう一つの閉鎖花(注1)による方法を持っている。つぼみはできるがつぼみの状態で(花として開かず)受粉すなわち自家受粉して次世代の種子を作る。花を咲かせても虫が来ないなど条件が整はなかったら受粉ができず種子が残せないが、この閉鎖花であれば確実に次世代へ繋げる。(注1)閉鎖花に対して通常の花を開放花と言う。

閉鎖花は、他株との生殖細胞の交換が行われないので遺伝子は原則親と同じであり、遺伝子的には多様性を保つには不利な繁殖方法であるが、ホトケノザは、通常の開放花も維持しつつ、閉鎖花も敢えて備えている。

ホトケノザには子孫を残すもう一つの仕掛けをもっている。開放花あるいは閉鎖花のいずれによってでも出来た種子にはアリが好むゼリー状のエライオソームなる物質(脂肪酸、 アミノ酸、糖などを含んだ物質)が付いており、これに誘引されたアリはエライオソームの付いた種子を自分の巣まで運ぶ。種子をできるだけ広い範囲に散らし生育領域を広げる仕組である。

次世代の種子を作るのに遺伝的に有利な開放花と遺伝的には不利であっても確実に種子を残せる閉鎖花の二本立てとして、開放花では昆虫が効率よく花粉を運べる花の構造を、閉鎖花ではつぼみのままでの自家受粉を、更には生活領域を確実に広げるためにアリによる種子の拡散を採っている。

メルヘンチックで可愛い花を咲かせるホトケノザも次世代の生き残りと繁栄を懸けた戦略・戦術をもってしたたかに生きてきたのである。

以上