【野草雑感 Ⅰ】

わが家の庭の「春の妖精たち」(スプリングエフェメラル)

投稿:新矢田一丁目 市川景範

 今年もわが家の庭の「春の妖精たち」(スプリングエフェメラル)は、にぎやかに大いに楽しませてくれています。 二月の初旬のフクジュソウ、セツブンソウに始まり、直ぐ続いてカタクリの花、コバイモ、キクザキイチゲ、イチリンソウ、ニリンソウと次々と花を上げます。そして木々の新芽が葉を展開する五月中旬には、妖精たちは茎葉を枯らし地上部は姿を消してしまいます。地上部があるのはせいぜい三ヶ月程度で、この間に明るい太陽の日差しを独り占めするようにいっぱいに浴び、花を咲かせ、種をつくり、根茎に栄養分を蓄え、地下で来年の春を待ちます。

 この様なライフサイクルの植物を「スプリングエフェメラル」と云います。エフェメラルとは、儚い(はかない)、束の間のなどの意味ですが、誰が付けてくれたのか日本語では大変ロマンチックな「春の妖精」が定着しています。

 これらの植物は、いずれも小柄な草本ですが、これはまだ寒さの残る中、大きく伸びては寒さに耐え難く、何よりもまず子孫を残すための花に多くを割いた結果、花は華やかで大きく他からよく目立ち、春先のまだ少ない虫を呼び寄せるのに向いています。その結果、我々から見ると大変花が美しく観賞価値の高いものとなっています。

 スプリングエフェメラルは、ライフサイクルから温帯の落葉広葉樹林の林床に適した植物であり、かっての寒冷期の日本には広く分布していましたが、温暖化による常緑の照葉樹林の進出により落葉樹林の後退と共に、北方あるいは高冷地へと後退して行きました。しかし人里近い里山では人の手による明るい林床の存在から、これらの植物は最近まで見られることが多くあり、今でもカタクリ、セツブンソウなどの群落が新聞、テレビなどで紹介されることがあります。

 鈴鹿山系の北部の藤原岳、御池岳またその先の霊仙岳、伊吹山は、これらスプリングエフェメラルの宝庫であり、その種類の多さ、数の多さ、咲き方のすばらしさは抜群です。

 山野草歴五十年。山野草を始めたのもこのスプリングエフェメラルでしたが、それから変わらず毎年楽しみ続けています。