【野草雑感 Ⅹ】

投稿者  新矢田一丁目  市川景範

ホタルブクロ

我が家の庭のホタルブクロは今を盛りと多くの花茎伸ばし白い提灯花を賑やかに咲かせている。

今年の梅雨入りは平年より2週間以上早かったが、それに合わせるように一番花はその頃例年より早く咲き始めた。今年は、立ち上がった花茎の数も多く、また一本の花茎に着く花の数も多く、100個を超えるのもある。

ホタルブクロは、日本国中の野山、土手、林縁などでよく見られる野草であるとは言え、その季節に何処でも直ぐ見られるほどポピュラーではない。当地(三重県桑名市)では昔は郊外の丘陵地で見られたが、ご多分に漏れず生育地の開発や花がよく目立つことから掘り取られてしまったのか、現在見られるのは民家のお庭あるいは公園などである。

花の色には、大きく分けて白系統と青紫系統があり、自然界では西日本は白系が、東日本では青紫系が多いといわれているが、白を持てる人は青紫を、青紫を持てる人は白を導入したいなど人為的な結果として人里近くでは両系統が入り乱れ、また交雑によりいろいろな色合いのものが見られる。

ホタルブクロは、漢字では“蛍袋”であるが、ホタルが飛び交う時期とホタルブクロの花の時期がいずれも梅雨の頃で重なることから捕ったホタルを花の中に入れて子どもが遊んだとしてこの名が付いたと言われる。筆者は実際に試したことは無いが、花の色が白であっても青紫であっても中にホタルを入れれば暗闇では中のホタルの光の点滅は透けて見え、多分大変メルヘンチックな情景であろうと思う。他方、ほたるとは“火(ほ)垂(た)る”で、これは提灯の古い呼び方で提灯に似た袋としての説もあるが、筆者は当然に上述の前者を採りたい。

ホタルブクロは身近にあってよく目立つ野草であったことから、地方での方言も含めて多くの名が付いている。チョウチンバナ(提灯花)、キツネノチョウチン(狐の提灯)、トウロウバナ(灯篭花)、アンドンバナ(行燈花)、ツリガネソウ(釣鐘草)、フウリンソウ(風鈴草)、アメフリバナ(雨降り花)、また、子ども達の遊びから、花に口をつけ強く息を吹き込む(筆者は試してみたが息が弱くできなかった)あるいは花の口を指で塞ぎ叩くと小鼓(つづみ)打った時のような少し高い特徴ある音を立て割れることからトッカンあるいはポンポンクサなど・・・他にも多くある。

旅人に 雨降り花の 咲きにけり    小林一茶

風吹くや 釣鐘動く 花の形      正岡子規

この花は、開花の時には数多く咲き、目につきやすく、子ども達にとっては格好の遊び道具である。この花と子ども達の遊びについて調べていたら、こんな遊びのあることを知った。ホタルブクロの花を外からみて、「この花は “男” か “女” か」を当てっこする遊びである。

ホタルブクロの花の中を覗いてみると、筒の中心にでている雌しべの先が、一本の棒状のものと、その先が三つに分かれているものとがあることが分かる(写真参照)。子ども達は、雌しべが棒状のものを“男の花”、先が三つに分かれているのを“女の花”として遊ぶ。

ホタルブクロの花の断面(内部)

ホタルブクロの花は、雄性先熟といわれる植物で、開花した初めの頃は雄しべだけが成熟していて花粉は出すが、雌しべはまだ成熟してなく受精能力を持たず、自分の花の花粉では受精はできない、言い換えれば“雄花”である。数日経つと、こんどは雄しべは萎んでしまい最早花粉は出さず、雌しべが成熟して先端が三つに開いて受精可能な状態になり、“雌花”として、近くに咲いている別の若い花から花粉を昆虫などに運んできてもらって受精する。このからくりは、“自家受精”よりも“他花受精”によって遺伝的に有利な子孫を残そうとするホタルブクロの長年の進化の知恵の一つである。。

我が家のホタルブクロも咲き始めておよそ一ヶ月近くなるが、まだまだ盛んに花をつけている。今日は、梅雨の晴れ間、ホタルブクロの周りには幾匹かの“マルハナバチ”が花から花へと羽音を立てて飛び回っている。

ながあめの 晴れ間ほたるぶくろは 袋干す    山口青邨

ほたるぶくろの花より出でて 花移る 蜂の羽音の間をおきて冴ゆ        谷  鼎

ホタルブクロの花が終わると真夏となる。

以上